凍る雪那 -風花-


 雪が降っていた。
 ただ、静かに。
 ゆっくりと舞い落ちる欠片達。
 少しずつ、世界を白に染め上げていく。

 花が咲いていた。
 白に染まりゆく世界の中で。
 ただ、一輪だけ。
 その中に紛れる様な、白色の花。
 それでも、雪に埋もれてしまう事はなく。
 静かに、其処に佇んでいた。

 ――その存在を、刻み付けるように。

 雪が降っていた。
 白い雪。
 受け止める白色。
 其処に刻まれた傷痕を、埋めるように。

 隠される傷痕。
 それでも、埋まる事の無い隙間。
 癒えない傷痕。
 いつかまた、雪が解ける頃に。
 形は違えど、その痕だけは、そこに。

 ――その事実が、消える事は無い。

 だからこそ、永遠を望んだ。
 だからこそ、白色を望んだ。
 全てを消してしまいたかった。
 全てを忘れてしまいたかった。
 例え、不可能だと解っていても。
 例え、道を踏み外してでも。

 例え、それでも叶わぬ願いでも。

 ――小さな風が吹いていた。

 気が付けば、雪は止んでいた。
 その中を流れていく、白い欠片。
 儚く舞い散る、その欠片は。

 傷痕は消えない。
 けれど、其処にあるものはただの痕。
 すでに、同じ傷を付けるものは其処には無い。
 時は流れる。
 傷付けるものも。
 其処に残された痕も。
 全てを、ゆっくりと溶かすように。

 ――気付けば、ただ、それだけの事。

 望んでいた結末。
 それは、望まずとも訪れる終焉。
 そして、新しい始まりへと繋がっていく足痕。

 溶けていく雪の上。
 小さな花弁が、優しい風に揺れていた。

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