凍る雪那 -雪月歌-


 ――過ぎし日の命刻みし紅き花

 歌声が聞こえる。
 透明な声。
 白に塗り潰された世界の中を、すり抜けるように。

 ――遠き碑の影塗り潰し白き花

 歌声が色を変える。
 時に、白く。
 時に、赤く。
 在るがままに、世界に色が染み込んでいく。

 ――囁き声が届く日は無く

 歌声が聞こえる。
 染み渡る旋律。
 全てのものに、分け隔てなく。
 ただ静かに、震わされる声。

 ――願う言葉は此方に消える

 白色が解けていく。
 全てを拒絶した色が。
 全てを覆い隠した色が。
 やがてゆっくりと溶け、在るべき色に染まっていく。

 ――凍れる日々に終焉を

 歌声が聞こえる。
 世界を染める歌。
 永遠を溶かす歌。
 終焉を告げる歌。
 始まりを刻む歌。

 ――消えゆく時に産声を

 歌声が聞こえる。
 それは誰の歌声か。
 壱つ。
 弐つ。
 幾つもの歌声が聞こえる。
 全ての声が重なり合い、響き合っていく。


 歌声は告げる。
 ただ、この世界の形を。
 そして、全てが解けていく。
 凍りついた色も。
 歪んだ願いも。

 ――在るべきものは、在るがままに。

 消えていく願いを、静かに抱えたままで。

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