Shooting Star


 私達の頭の上を、一筋の光が流れていった。
「あ……流れ星」
「お、ほんとだな」
 その光景を、横にいるまぐにと一緒に見送る。
「最近、多いよね……」
 そんなことを言いながら、気が付くと、私は手を合わせて祈っていた。
「どうした? 流れ星が消えるまでに3回願い事を言うと叶うって言う、アレか?」
 それを見たまぐにが、そう声を掛けてくる。
「そんなのじゃないよ。ただ……」
「ただ?」
 少しだけ言葉に詰まりながら、続ける。
「あの光って、私達が消えるときに、似てるよね……って」
「まあ、そうな。原理は同じだからな。ただ、アレはオレ達じゃない……それだけのことだろ」
 もう慣れたようにまぐにがなだめてくる。
「わかってるよ。あれは、行き場を無くしたデータの残骸。それはわかってる。だけど……」
 それでも、哀しい気持ちは止まらなくて。
「……最近、多いよ。この前も、大きいのを2つ見たんだよ」
「それだけ、論理空間が使われることが増えてきてるって事だろ。データのロストはどうしても起きる現象だ」
 まぐには、ずっと同じ口調で話しかけてくる。
「それも、わかってるつもりだよ……それでも……」
 それでも、一度溢れだした気持ちは、流れ続けて。
「……ごめん。ちょっとだけ、泣かせて……」
「……ああ」
 それ以上は、まぐにもなにも言わなかった。
 ただ、私の嗚咽する声だけが、やけに響いて聞こえていた――

「……そろそろ、落ち着いたか?」
 しばらくして、まぐにが声を掛けてくる。
「うん……大丈夫」
 その言葉に、私は笑顔で答える。
 そこで初めて、自分で、もう大丈夫だと実感することが出来た。
「でも、ダメだね、私。私がサポート役のはずなのに、いつもサポートばかりして貰ってる」
「『持ちつ持たれつ』だ。【フォルダ】ってのは、そういうものだろう」
 それでも、ふとしたことでまた泣きそうになる私を、まぐにが励ましてくれる。
「うん……ありがとう」
 こういう時には、それが本当に嬉しかった。
「ただ、1つだけ言っておくか」
 やけに真剣な顔で、まぐにが続ける。
「アレはあんまり気にするな。実際、【バーチャユニット】の中に、移動時にああいう【エフェクト】をかけるヤツもいる」
「ええっ。何のために?」
「さあな。ソイツが何を考えてやってたかなんてオレはしらんよ。アイツは【ヴェズルフェルニル】だったからな。撹乱のつもりかもしれん」
「そうなんだ……でも、それって」
 正直、私はあまりいい気はしなかった。
 まぐには、そんなことには興味もないようで、
「そう言うヤツもいるってだけの話だ。だから、あんまり気にするな。全てが情報の喪失による物だとは限らん」
「……うん、わかった」
 とりあえず、その場は頷く。
「でも、それって……何だか、私達の死が軽く見られてるみたいで、嫌だな」
「そうか? やってることは死んだフリだ。そう考えれば、わりと普通の戦術だろう」
「そうなんだけど、ね」
 それでも、それだけは、どうしても納得は出来なかった。

「さて、時間をくっちまったな。急ぐか」
 思い出したようにまぐにが言う。
「え……? あっ」
 慌てて時間を確認すると、合流予定より5分ぐらい遅れていた。
 試合開始にまではまだ余裕があるからいいけど……。
「ホントだ〜。安子さん、怒ってるかなぁ……」
「まあ、大丈夫だろ」
「あの人、怒ると怖そうだよね……急ごう?」
 少し不安になって、まぐにに声を掛ける。
「というか、普通に行けば一瞬で行けるだろ」
「……えへへ〜」
 なんとなく恥ずかしくなって、笑う。
「そもそも、オマエが『たまにはのんびり行こう』とか言わなきゃ、遅れることもなかっただろうに」
「もう……今さら言っても、仕方ないでしょ?」
 今度は、苦笑。
「まあ、それだけ自然に笑えれば大丈夫だな。行くぞ」
 そこまで言って、まぐにの顔にも笑顔――のような表情が浮かぶ。
「うんっ」
 そして、私達も光に包まれた。
 それは、さっきの流れ星のような儚い光ではなくて。
 どこか、暖かくて。
 そして――次の瞬間には、私達の姿は、そこから消えていた。


「あ……遅れました。すみません」
「お。やっと来たか」
「逝ってよし!」
「え……あの、その」
「コイツの言うことは気にするな」
「俺を突き放すな!」
「さて、揃ったところで逝くか?」
「……はいっ」

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