凍る雪那 -白色-


 目に映るものは、一面の白。
 それは、美しく染まる色ではなく。
 全てを拒絶するように、上から塗り潰す色。
 ただ、白く。
 一点より生まれいずる白。

「私は……どうして……」

 声が聞こえた。
 小さな声。
 泣いている声。
 しっかりと意識していなければ、聞き逃してしまいそうな声。
 そうでなくても、周りにそれを聞くものは居ない。
 周りはただ、一面の白。
 そして、その声の主もまた、白く。

 その姿は、白すぎるほどに。

「貴方は……どうして……」

 尚も声は続く。
 それは、人間の言葉。
 それは、人間の形の影。
 その色だけが、人の範疇を超えて、白い。
 身に纏う衣も。
 その下から覗く肌も。

「……あああぁぁぁぁぁっ」

 糸が切れたように、叫び声が上がる。
 その声と共に吹き上がる、白色の欠片。
 辺りはもう、充分に白く。
 それでもまだ、それだけでは足りずに。
 辺りの白い影は、形の無いただの白へと姿を変える。
 全てを――形さえも、塗り潰されるように。

「どうして……何処に……貴方は……私は……」

 その中心で、白い影が泣き続ける。
 自らがもたらした色には、目もくれず。
 全てを、自分の色へと巻き込み続ける。

 それは、拒絶の色。
 全ての色を受け入れず。
 全ての色を塗り潰して。
 其処に居る自分すら、その中では見えずに。
 其処に届く光すらも見失う。

 届かない声。
 届かない願い。
 その全てを塗り潰して、影は彷徨い続ける。

 自らが塗り潰したものに、気付く事も無く。

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