痛いよ


 それはきっと、私の抜け殻。
 私の形をした、私とは違うもの。

 そう、思っていたのに。

 赤い筋が走る。
 それは、自らで付けた傷。
 それはまだ、小さな流れ。
 ここで止めれば、ただそれだけで止まり。
 続けてしまえば、何処までも広がり続ける。
 本当に、小さな傷。

 だけど、それだけの切っ掛けから、流れ出る物は多くて。

(……痛い、よ)

 それは、言葉にすらならない声。
 ただ、純粋な痛み。
 そこには居ないはずの、私の中で。
 気が付けば、溢れる涙。
 私の中から押し出される度、私が私に戻ってゆく。

 私は此処に居る。
 気付いてしまえば、それだけの事なのに。

 ただ、痛くて。
 自然と、泣いて。
 それでも、嬉しくて。
 自然と、笑って。

 感情がぐちゃぐちゃで、わからない事だらけで。
 でもそれが、此処に居る私で。

(……痛い、な)

 傷の痛みは、すぐには消えない。
 それでも、この程度ならいずれ、傷痕も残さずに消えるだろう。
 だけどもう、大丈夫。
 印がなくとも、私は此処に居ると気付けたから。

 たとえ、光に届かなくとも。
 もう、見失う事は無いから。

 毎年恒例、1月6日更新
 相変わらず散文だけな上に、説明しないと意味がわからなくなってきた気がする

 これはKanon全体と言うよりは、栞ルートなわけですが
 栞の話は幾つか書いてたけど、ふと、栞視点で書いた事はなかったなぁと思って
 じゃあ何か書いてみるかと思ったら、何故かこんなシーンを抜き出しちゃっただけの話
 ついでに言うと、栞視点も3年前に書いてる事に、書き始めてから気が付いたり
 なんか駄目だ、色々と

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